第33章 夢のあとのその先(前編)、の巻
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※ここからはさとちの回想シーンが入りますが、【─籠の鳥─終わりのそのムコウ】をご覧になってからの方が分かり易いかなぁ…と、思います♡(←地味に宣伝(笑))
「………画材は、持ってけないもんなぁ」
僕は、教授のお屋敷でアトリエ代わりに使わせて貰っていた部屋で
そこに、所狭しと並べられた画材たちを見回して、ボソッと呟いた
その日
みんなに黙ってこっそり病院を退院してきたその日
朝一番で病院を出た僕は、急いで教授のお屋敷に戻り、ソコを出るために荷物を纏めていた
教授に黙ってイカガワシイバイトをし続けた結果、あんなコトになってしまったのに
これ以上、教授の所でお世話になる訳になんか行かないと思ったからだ
…それに、あの時…
ストーカーに襲われ、悪夢のような時間を強いられていた時
泣き喚きながらもがいていた僕の頭を占拠していたのは
教授ではなかったから…
その時、僕は気付いたのだ
自分が今、本当に好きなのは教授ではなく
あの時必死に心の中で名前を呼んでいた
…潤くんなんだ…って。
「……長い間、お世話になりました……」
(………って、なんか嫁ぐ前日の娘みたいなセリフだな(苦笑))
僕は、誰もいない屋敷に向かって呟いた自分の独り言に苦笑いしながら
約五年間お世話になった教授のお屋敷を後にして
行く先を決めぬままに、駅に向かって歩き出した
行くアテなんか、何も無かった
そもそも、僕には頼れる親戚縁者なんか居なかった
だけど僕は、兎に角遠くへ行こうと思った
自分を知る人の居ない何処かへ
…ひっそりと身を潜めて暮らせる何処かへ…
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