第32章 迷惑な新人くん、の巻
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「どうって……解んない。
ダッシュで店を出て置いて来ちゃったから…」
「え?……じゃあ翔くん、お金払ってないんじゃないの?」
いくらなんでも、後輩の…しかも新人の男の子に飲み代を払わせるのはマズいんじゃないかって思ってそう言うと
翔くんはちょっと情け無い顔をして笑いながら言った
「明日会社で会ったら謝って金を渡すから良いよ(苦笑)」
「………///」
明日も翔くんは、あの子と会社で顔を合わすんだと思って、なんだか複雑な気分になって俯いたら
その顔を翔くんの手が優しく包んだ
「……大丈夫だよ、もうあんな事が無いようにちゃんと話すし……もう二度と、二人きりとかで飲みに行ったりなんかしないから」
「…………////」
「ごめん………マジ、ごめん」
翔くんは繰り返し謝ると、優しく優しく僕を抱き締めた
「……まさかさ……男の子から好きだなんて言われるなんて思ってもみなくてさ……
……相手が女の子ならある程度警戒もするし、そもそも飲みになんか行かないけど……ホント、まさかっ!…って、感じで…」
「…………モテるに決まってるじゃん///」
僕は、何とか声を絞り出すと
翔くんの逞しい胸に顔を埋めた
「………僕の、旦那様なんだから……男の子にだってモテるに決まってるじゃん////」
「…智くん…///」
「………翔くんのばか……翔くんの唇は、僕のなんだからな……油断してようが何だろうが、僕以外の子に触らせるなんて、許せない////」
「ごめん……ホントごめんって////」
「………お家に帰って………証明して////」
「え………?」
翔くんが驚いて僕の顔をのぞき込む気配がした
でも僕は、恥ずかしくて顔を上げる事が出来なくて
真っ赤になった顔を翔くんの胸に押し付けたまま言った
「……お家で、翔くんが……翔くんの、唇が……僕のものだって……僕だけのものなんだって……
……僕に、証明してみせてよ……////」
「…………解った」
「………/////」
翔くんは、無理に僕の顔を上げさせる事なく、柔らかく僕を抱き締めると
カッコ良くタクシーを止めて、僕を片腕に抱いたまま、タクシーに乗り込んだ
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