第31章 虹の向こう…、の巻
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家を出た僕は、電車に乗って翔くんの会社の最寄り駅の、一つ手前の駅で降りた
それから、ゆっくりと翔くんの会社のある方へ歩き出す
のんびり歩く歩道の其処彼処に、小さな水溜まりが出来ていて
僕は、ワザとその上をぴょんぴょん跳ねて越えながら歩いた
(…そう言えば昔、潤くんと2人でお散歩して歩くときに、良くこんなことやってあそんでたっけな)
潤くんの結婚が決まる前までは
潤くんの仕事がお休みの日なんかに、たまに近所の公園を二人でお散歩したりしていたんだけど
雨が降った翌日とかで水溜まりが沢山ある様な日は
公園の遊歩道に出来た水溜まりを、潤くんの手に掴まりながらぴょんぴょん跳ねて飛び越える遊びを良くしていた
僕がぴょんと跳ねるとき、たまに潤くんが意地悪をして腕を引っ張るから
時々水溜まりに落っこちちゃったりして
それで、潤くんは自分が悪戯した所為なのに
「智の所為で水が跳ねて服が汚れた」
なんて言って
“お仕置き”と称して僕を木陰に引っ張って行って、キスしたりした
(…あの頃は、幸せだったなぁ…)
潤くんと一緒に暮らす様になってから、潤くんの結婚が決まるまで
僕は……本当に幸せだった
潤くんは、…そりゃ、ちょっと束縛し過ぎな気はしなくは無かったけど
本当に僕を愛してくれたし
僕も、そんな潤くんを愛してた
(………もしも、潤くんが結婚話しを断ってたら………)
「…………………ばかみたぃ///」
過ぎてしまったコトに、いくら“もしも〜だったら”なんて思ってみても
…何の意味もない
ただただ、虚しくなるだけだ
(………でも)
歩道の端っこの小さな水溜まりを、つま先で突っつくと
水溜まりに映ったまだらな青空が、波紋と一緒に揺れた
「……そしたらきっと、僕は今でも、ジメジメベタベタしてたな」
そんなコトを呟いてふと顔を上げたら
ビルの隙間から見えた雨上がりの空に、小さな虹が掛かっているのが見えた
ああ、翔くんだ
僕は、その虹を見て
咄嗟にそんなコトを思った
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