第31章 虹の向こう…、の巻
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(そう言えばこの頃、潤くんの夢をあんみり見なくなったなぁ…)
ある、平日の昼下がり
その日、あまり筆が進まなかった僕は、ギャラリーを早めに出て
久しぶりにデパ地下なんかをブラブラしていた
高級そうな食材を、何となく手に取ったりしながらブラブラ歩いて
昔、潤くんと付き合って居た頃はよく来たよなぁ、なんて思い出していたら
ふと、最近あの悲しい夢を見なくなったことに気付いた
それは、潤くんとちゃんと別れて、翔くんと二人で暮らし始めた頃
度々見ては涙して夜中に起き出していた
悲しい…悲しい夢…
僕がまだ、潤くんの用意した鳥籠に囚われて
何時逢えるか解らない潤くんを、不安と虚しさの中でただ待っていたあの頃の夢…
(…何時からかなぁ…見なくなったの)
デパ地下のお惣菜って高いよなぁ
なんて思って、薄ぼんやりキレイにショーケースに並んだお惣菜を眺めながら
僕は、何時からあの夢を見なくなったのかを思い出していた
(全く見ない訳じゃないけど……最後に見たの何時だっけなぁ?
………ん〜………思い出せないなぁ)
それこそ、二年くらい前は、思い出したくないのに思い出してしまうほど頻繁に見ていたのに
今では、最近いつ見たのかもさっぱり思い出せないくらい、その印象は薄れていた
(……やっと、潤くんへの想いから解放されたってコトなのかなぁ(苦笑))
解放されたなんて言ったら、潤くんに申し訳ないなぁ
なんてちょっと苦笑いして
僕は、何にも買わずにデパ地下を後にした
「梅雨……そろそろ終わんないかなぁ…」
僕は、地上に出ると、傘を開きながらどんよりと雨雲の広がった空を見て呟いた
三年前の今頃
僕は、潤くんに隠れてコソコソ翔くんと逢っていた
あの頃の僕は
いつも、こんな梅雨の空みたいに、もやもやと晴れない気持ちを抱えていた
…翔くんを、愛してた
あの頃から、翔くんだけを
でも、潤くんから離れるのが怖くて…
いけないと思いながら、僕は二人の間をさ迷っていた
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