第29章 悪夢の再来、の巻
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乱暴に腕を振り払われた高橋さんは、驚いてポカンと僕を見ている
「あ………ご、ごめんなさい………僕なら大丈夫ですから……」
「……そうですか」
「はい。
……じゃあ僕、早く絵を仕上げてしまいたいので、アトリエの方へ行きます」
「解りました。でも、くれぐれも無理はなさらないで下さいね」
「ありがとう、御座います…」
僕は、心配してくれる高橋さんに対して何故あんなにイヤな気持ちになってしまったのだろうと
今度はそんな自分に嫌な気分になりながら
描き掛けの絵を仕上げるべく、小走りにアトリエの中に入って行った
それから直ぐに鍵を閉める
(…………何だろう、この感じ…………)
さっき吹き出し汗が、まだ引かない
全身を覆った嫌悪感も、消える気配がない
(……………………怖い)
高橋さんは、ただ僕を心配してくれただけなのに
高橋さんに腰を抱かれて、叫び出したい衝動に駆られてしまった僕
…どうしてだか解らないけど、凄く嫌で…凄く怖かった
「………………へんなの////」
僕は小さくそう呟くと、昨日描いていた絵の前に向き直った
「考えたってどうせ解らないんだから
今は絵に集中しなくちゃ」
僕はふうっと一つ大きく深呼吸すると、腕捲りをしてキャンバスの前に座った
「よし、やるぞ!///」
嫌な気分を一蹴すべく、ちょっと大きめの声でそう言うと
僕は絵筆を手に取って、最後の仕上げに取り掛かった
今更、後でそんな事を言っても仕方が無いけれど
せめてその時気付くべきだったんだよね
その、得も言われぬ嫌悪感が、何を意味していたのかを
何故、高橋さんにそれ程までに嫌悪感を覚えたのかを…
絵を書き始めてから、数時間後
絵が仕上がって、アトリエから出ようとした時
その人が
その本性を現した
十数年にも渡って
僕をストーカーしていた
その、本性を…
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