第29章 悪夢の再来、の巻
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「ただいまぁ」
「おかえりなさい♡」
それからしばらくして翔くんが帰って来た
翔くんは何時も通り僕に鞄を渡すと、渡した鞄ごと僕を抱きしめた
「大野画伯、初日の出来は如何でしたか?」
「んふふ…いい感じだったよ?///」
「そっか、良かった…あのおっさんはアトリエには全然近寄らなかった?」
「高橋さんには、あの後帰りに挨拶した以外は会ってないよ?
メールにもそう書いたでしょ?」
抱きしめられた腕の中で顔を上げてそう言うと
翔くんは微妙な顔で笑って、小さくそうだねと言った
「なんでそんなに高橋さんを毛嫌いするの?」
翔くんと手をつないで寝室に向かいながら訪ねると、翔くんは大きなため息をついた
「なんでって智くん…あんなあからさまに狙われてんのに、気付いてないの?(泣)」
「狙われてるって?」
「……もう、本当に智くんは……」
翔くんはまた、はぁ〜と大きなため息を付くと
ジャケットを脱いで僕に手渡した
「…あのね、智くん…あのおっさんはさ、智くんのことごっついやらしい眼で見てたんだよね?
もうさ、全身から隙あらば何かしようってオーラが出まくりだから…
…だからさ、危ないから、なるべく近付かないで欲しいんだよね?」
「ん〜…」
(まあ、いやらしい目つきをしていたのは、解るけど…そんな気にするほどじゃない気がするんだけどなぁ)
僕はどうも、自分が翔くんが言うように“狙われてる”とは思えなくて、生返事をした
「はぁあ〜………やっぱ、俺が気を付けてあげるしかないか(苦笑)」
翔くんはボソボソとそう言うと部屋着に着替えて
スーツを仕舞い終わった僕の手を握った
「まあ、それは一旦置いておいて、手巻き寿司食べよっか?」
「うん♪」
それから僕は、翔くんと二人で仲良く手巻き寿司を楽しんで食べた
何時かの悪夢が
再来するかも知れないという危機に
これっぽっちも気付かずに…
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