第29章 悪夢の再来、の巻
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「…そっかぁ、しょうくん遅くなるのかぁ」
僕は切った電話をエプロンのポケットに仕舞いながら呟くと
キッチンに戻った
それから炊き上がったご飯を飯台に移す
「〜〜♪♪」
飯台に移したご飯に寿司酢を混ぜる僕
気付いたら、自然に鼻歌なんか歌っていて
我ながら浮かれてるなぁ、なんて思った
だけど実際
久しぶりに絵だけに向き合える時間は凄く楽しくて
あっと言う間に帰る時間になってしまった
僕は絵に集中すると時間を忘れてしまうので、念の為帰る時間に合わせてタイマーをセットしていたのだけれど
それが鳴っているのに暫く気付かない位に集中出来て
何だか凄く充実感があった
「やっぱり楽しいなぁ、絵を描くの♪」
今までだって、時々教授の家で絵を描かせてはもらっていたけど
環境が違うし、そもそもお邪魔しているって意識があるから、何処か集中しきれない所があった
それに、描く時間も短くて限られていたから、長い時間絵にかまけている事は無かった
「……結局、好きなんだよなぁ(笑)」
絵を、描くのが…
「………」
絵を凄く好きになって沢山描くようになったきっかけは
母だった
昔、僕がまだ小さかった頃
母の日に描いた彼女の似顔絵を、お母さんが凄く誉めてくれたから
それが嬉しくて、絵を描く事が凄く好きになったのだ
その後も、母は僕が描く絵を誉めちぎった
そしてよく
「智はきっと、将来すごい画家さんになれるわよ!」
なんて、言っていた
その頃から
僕の将来の夢は、画家になることになったのだ
そして今
母が齎してくれた縁で、僕は画家として絵を描くことが出来るようになった
「ありがとう、母さん……全部、母さんのお陰だね」
僕は、ギャラリーからの帰り道で買ったカサブランカの切り花に向かって語り掛けた
「……何時も、ありがとう……僕を、見守ってくれて、ありがとう」
死して尚
僕の支えであり続けて
僕を見守ってくれている母
僕は、そんな母の為にも絶対に画家として世間に認められる様に頑張ろうと
1人、心に誓った
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