第29章 悪夢の再来、の巻
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「あれは丁度、五年程前のことでした
私は、友人の家で大野さんが描いた絵に出会いましてね
いや、私が昔父から貰った写真の女性に瓜二つな絵を見てそれは驚きましたが
すぐにその友人にその絵を譲ってくれるように交渉したのです」
「…はぁ」
「友人も、最初は気に入っている絵だからと難色を示していたのですが
私の熱意に負けてとうとう譲ってくれることを承諾してくれましてね
で
タイトルに“母”とあったので、是非ともその絵を描いた作者に会いたいと思いまして友人に訪ねた所
昔露天で買ったものだから解らないと言われまして」
「…はぁ」
「ですが、詳しい話を聞けば、それを描いた作者は、あの絵に瓜二つな青年だと言うじゃないですか
私は益々その絵を描いた作者を探したくなりましてね…
…まあ、何を間違ったのか、その熱意が絵画そのものにも向いてしまいまして
遂にはギャラリーを開こうと思うまでに至ってしまったのですが(笑)」
「…はぁ」
佐藤さんは其処まで話すと、一つ大きく息を付いて
また話し始めた
「…ですが、最初に手に入れたあの絵の作者の消息は全く掴めませんで…
…そんな時、高橋が私の元を訪ねて来たのです」
「高橋さんが?」
「ええ、何でも彼は絵画に興味があって、特に露天で絵を売る画家の絵を収集するのが趣味だとか言いましてね
何処かで私があの絵の作者を捜していると聞きつけて、自分なら捜せるかも知れないと言ってきたのです」
(…つまりは、おっさんの方から接触してきたって事か?)
何故か、胸が嫌な感じにざわつく
佐藤さんはそんな俺の様子には気付かずに喋り続けた
「それで、私も多忙なものですから、ギャラリーを営むにも自分ではなかなか時間が持てませんでしたので
丁度それを任せられる適当な人材を捜して居たものですから
絵の作者を捜す傍ら、ギャラリーの管理を彼に任せる事にしたのですよ」
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