第29章 悪夢の再来、の巻
.
人間は
あらゆる動物の中でも
秀でて寿命の長い生き物だ
その、長い年月を生きる為に
人は
「忘れる」と言う、脳の機能を得たと言う
生きて往く上で必要のない記憶
生きて往く上で不都合な記憶
そんな記憶を、書き換え、時には無かったことにしてしまう
だけど、時にそれは
本当は忘れてはならない出来事をも忘れさせてしまう、諸刃の剣だと言えるかも知れない
ねぇ、翔くん
僕は、忘れるべきでは無かったんだよね
辛くても
苦しくても
ちゃんと向き合って過去を受け入れて
その上で前に進むべきだったんだ
それなのに、僕は
全てを忘却の彼方に置き去りにして
目を背け、記憶から消去してしまったんだ
ねぇ、翔くん
だから僕は気づかなかったんだ
あの人の眼が
“その人”と同じ暗い光を帯びて僕を見ていた事に
顔も
名前も
雰囲気も
何もかも変わっていた“その人”の
唯一変わらなかったその陰鬱な視線に
…気付くコトが、出来なかったんだ…
.