第28章 智、画家になる!?、の巻
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「………はあ」
「どう言う経緯でその写真の方と知り合ったのかは解りませんが、何しろ私も思春期だったものでね
単純に、こんな綺麗な人に!なんて、父を見直してしまって(笑)
で、父と同じ弁護士の道を志したと言う訳です」
「そう、だったんですか…」
「ええ」
佐藤さんは写真をまた大事そうに懐に仕舞うと、眩しそうに目を細めて僕を見た
「だから、貴方の描いた絵に出会った時、私は瞬時にこの人に恩返しをせねばと思ったのです
それで、ギャラリーの者に貴方を捜させたと言う訳なのですよ
勿論、貴方の描いた絵の素晴らしさに惹かれたと言うことも含めて、取引したいと思ったのですがね(笑)」
「……そうだったんですか」
同じ事を繰り返す僕を、それまで僕らの様子を静観していたニノがじっと見詰めながら言った
「…良かったじゃないっすか、大野さん
ここは、素直に恩返しされたらどうですか?」
「……………うん」
(……良いお話しだとは、思うんだけど、ね……)
僕は、ふうっと小さく息を吐いて、佐藤さんを見た
「………ごめんなさい、もう少しお時間を頂けますか?」
「それは構いませんが、何故です?」
「あの………その、僕………今、主婦してるんです///」
「は?」
僕の突拍子もない話に、佐藤さんが素っ頓狂な声を上げた
僕は、恥ずかしいのを懸命に堪えて話を続けた
「僕、その……生涯を誓い合った人と暮らしてて……それで今は、家のこと全部僕がしてるんです
それで、その……僕、画家になりたいって気持ちも勿論あるんですけど……
……それ以上に、今の旦那様との暮らしの方が大事だから……
……だから、彼とよく話し合って決めたいんです///」
「そうですか」
佐藤さんは、ちょっと残念そうに頷くと言った
「そう言う事でしたか……解りました
では、良いお返事をお待ちしておりますよ、大野さん」
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