第28章 智、画家になる!?、の巻
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「何だよもう、一々叩くなや(怒)」
「わりぃわりぃ(笑)
いや、実はちょっと原稿の確認にギャラリー佐藤へ行かなあかんかったんやけど
櫻井くん、代わりに行かへんか?」
「はあっ?何でだよ(怒)」
「いや、だって心配なんやろ?可愛い嫁さんがどんなトコからお誘いを受けとるんやろかって」
「そりゃ、そうだけど…」
「ほな、頼むわ♪」
「お前、自分が楽したいだけだろが!(怒)」
「まあまあ、櫻井くんの残りの仕事、俺が片付けといたるからさぁ♪」
「…………ったく」
何だか村上にまんまと乗せられてしまった気はしなくも無かったが
俺は、可愛い智くんの為だと思い直して
村上の手から原稿をふんだくると、それを小脇に抱えてギャラリー佐藤へと向かった
(あ、あったギャラリー佐藤……へぇ……何だか小洒落た雰囲気だなぁ)
俺は村上に託された原稿を片手に、「gallery・SATOU」と書かれた看板を見上げた
全体的にアンティークな雰囲気だが、現代風なスタイリッシュさも兼ね備えた門構えに、思わずため息が漏れる
(結構な目利きだって言うだけあって、センスが良いんだなぁ)
俺は感心しながら、重厚感漂う扉を開けた
「こんにちはぁ、出版社の村上の、代理で参った者ですが…」
「ああ、お電話を村上さんから頂いて聞いておりますよ、櫻井さんですね?」
「はい、すみません、担当が急に変わってしまって」
「いえいえ、構いませんよ
どうぞ此方にお掛け下さい」
多分、このギャラリーの店長か何かなんだろう
やたらに愛想の良い中年のおじさんは、ニコニコ笑いながら俺に椅子を勧めた
「どうも、失礼致します
改めてまして、私櫻井と申します」
「ああ、どうもどうも、私はこの店を任されている高橋と申します」
(ん?………高橋?)
何だか聞き覚えのある名前に、首を傾げる
(あ、そうか!)
俺は、高橋さんから名刺を受け取りながら、それが智くんが持ち帰った物と
書かれている名前から何もかも、全部同じ事に気付いた
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