第28章 智、画家になる!?、の巻
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「え〜っと……お掃除済んだし、洗濯干したし、振込用紙持ったしぃ…
おっけーかなぁ」
その日も
何時もと変わらない朝だった
「よし!……って、イケない、鍵鍵…」
何時も通りお家の仕事を済ませて
何時も通りバイト先の図書館へ向かった
「今度こそ、行ってきまぁす♪
……って、僕独り言多いかな?
翔くんの独り言がうつっちゃったのかなぁ…えへへ///」
何時もと変わらない
……ハズだった
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「大野、智さん、ですね?」
「………はい?」
出勤した図書館で、何時も通り仕事をしていたら
知らない男の人に声を掛けられた
僕は立ち上がると、棚に戻そうとしていた本を、胸にギュッと抱き締めた
「…そう、ですけど…あなたは、どちら様ですか?」
「実は、私はこう言う者でして…」
その人は愛想良く笑いながら、懐から名刺を取り出した
「……画商……さん、ですか?」
「ええ、実はですね、以前うちの社長がある絵画を手に入れたのですが
作者が不明でしてね
ですが、社長がその絵をいたく気に入りまして
私が、その絵の作者を捜すように申しつかりましてね…
…で、巡り巡ってやっと貴方に辿り着いたんですよ、大野さん」
「え……?」
驚きと戸惑いに目を見開く僕を見て、にんまり笑うと、その人が言った
「どうでしょう、大野さん…ウチで、絵を描いてはみませんか?」
「……絵を、描く?……ウチで、って……一体……」
「さっきも申し上げました様に、社長は貴方を……じゃなくて、貴方の絵をとても気に入って居るんですよ
ですから、ウチの方でアトリエをご用意致しますので、そこで絵をお描きにならないか
と言う、お誘いに上がったのですが…」
「アトリエって……でも、そんな……知らない人に、そんなの……」
「ですから、一度、ギャラリーの方へいらして下さい
何時でも、何時までもお待ちしておりますから」
知らない男の人はそう言って、目一杯愛想笑いをした
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