第2章 ポッキーの日
〈ナツの場合〉
「ノエル、何食ってんだ?」
「んー?」
「何だその棒!」
「ポッキーだよ。」
「ぽっきー?」
「クッキーの棒にチョコがかかってるの。」
「ほー!くれ!」
どこからともなくお菓子を嗅ぎ付けてきたナツ。私が一袋手渡すとあっという間に無くなった。
「これ、うめぇな!!」
「ちょっと!それ!一口で食べるものじゃないんだけど!?」
「ん?そうなのか?」
「はぁ…。」
「ノエルみたいにちまちま食ってたら他のヤツに盗られちまうぞ!」
「…うん、そうね…。」
だろ!?と言って大きな口の口角をにかりと引き上げる。もはや突っ込む気もないが、ナツのこの顔が見られたから、よしとしよう。
私がそんなことを思いながらやっと一袋の最後の一本に差し掛かった時、ナツはもう大袋を全て食べ終えてしまっていた。
「ノエル!もう無ェぞー!」
「知ってるよ。ナツが全部食べちゃうからでしょ?」
「お、あるじゃねぇか!」
「だーめ!これは私のなんだから!欲しいならまた買ってくればいいじゃない。」
「ケチ―!鬼ー!」
「そんなこと言ってもだめなものはだめ!」
そう言ってナツに盗られない内にとさっさと袋からポッキーを出して口に咥えた。隣でナツがああ~!と騒いで肩を落としている。これでもう盗られることはないだろう、そう思ったのだが。
肩を落として項垂れていたはずのナツがにやりとこちらを見て笑った。その眼は獲物を狙う猛禽類みたいで、咄嗟に少しのけぞったのは無意識だった。
「…んん!?」
のけぞった私の両腕をがっちり固定されて、ギラギラとした目と肌色が近づいてくる。
「貰うなっ!」
清々しいまでにそう言い切ったナツ。何を、なんて言うまでもない。私が咥えていない方のポッキーの端はナツの口の中にあった。
―信じらんない!この状況でまだ食べようとするの!?ポッキーゲームじゃあるまいし!
口にポッキーを咥えているし、思考回路は停止しているしで何も反応出来ないでいる私を他所に、ナツはどんどん食べ進めてくる。
もう少しで鼻と鼻が触れ合うところでポッキーが折れた。
未だ固まっている私に少し赤い顔を向けてナツは言う。
「ごちそーさん。」
チョコだけが溶けて口の中に残ったクッキーはもう味なんてしなかった。