第3章 いい夫婦の日
〈ラクサスの場合〉
元からスキンシップが激しい人ではない。どちらかと言えばとてもドライな人だったと思う。それがどうだろう、結婚してからは暇があれば私の身体の何処かに触れる機会が多くなった。性的な意味ではなく、本当にふとした時に腕や肩をさわりと撫でていくのだ。
それは結婚した当初は家だけにとどまっていたのだが、とうとう最近になってギルドでも見られるようになった。カウンターに二人で並んで座っていた時にふと太腿に彼の掌が乗ったのだ。それを見たギルドの仲間たちが唖然としたのは想像に難くない。
かく言う私もいつものことだと錯覚してしまい、彼の好きにさせてしまっているのだが、後々エルザに参考にさせてもらう、と赤い顔で言われた時には流石に恥じらいを隠し切れなかった。
「ねぇ、ノエル。」
「うん?」
「ラクサスとはいつもああなの?」
「…ああって言うのは?」
「分かってるでしょ。いつもやってるあれのことよ。」
ついにルーシィに直接聞かれることになってしまった。無駄だとは知りながらも一応とぼけてみるが、やはり簡単には追求は免れないようだ。観念して口に紅茶を含みながら頷く。
「あんな人だっけ?」
「…結婚してからは特に多いわね。」
「へー…。」
「何よ、その顔。」
「別にィ。」
ルーシィはこれでもかと形のいい唇を引き上げてニヤついている。大方、私が照れていることなどお見通しなのだ。
ふと二階から重たいブーツの足音がした。足音だけで彼だと分かってしまうことにも照れながら階段を見ると案の定、葉巻を咥えた彼が下りてきて私達の方に向かってくるところだった。
「あ、噂をすれば…。」
隣で余計なことを言い出すルーシィを一瞥し、彼の腕は迷いなく私の肩に回る。そして徐に口を開いた。
「嫌か?」
「…聞こえてたの?」
「まァな。で、触られんのは嫌か?」
「そうは言ってないでしょ。」
正直、彼に触れられるのは好きだ。他ならない彼の体温は触れていて安心する。でもルーシィが隣に居るのにそんなことを言うのは―
「ルーシィなら行っちまったぞ。」
「え…。」
見れば私達からかなり離れた場所でにこやかに手を振っていた。
クク、と低く笑う彼のシャツの襟を引っ張って耳元に彼の望む言葉を囁けば、彼は僅かに目を見開いて、そして破顔した。