第2章 ポッキーの日
<ラクサスの場合>
「ラクサスって、お菓子食べるの?」
「あァ?」
剣呑な声を上げて閉じていた目を器用に片方だけ開けて、こちらを見る。彼が甘いものを食べているところなど見たこともない。いつも口にするのは食事か酒。
クッキーくらいなら食べるのかもしれないと好奇心から彼に問いかけてみた私は思わぬ答えを得ることになる。
「あれば、食うな。」
「ええ!?」
「なんだ。」
「ラクサスがお菓子なんて食べてるの見たことないよ。」
「てめえが食ってるのを一々取ったりしねぇからだろ。」
言われてみれば、お菓子が大好きな私は彼の側でも何かを口にしていることが多い。今も片手にはポッキーの箱を持っているし、それを食べながら彼と会話をしていた。
「欲しかったの?」
「んな訳あるか。」
ぺし、と頭を軽くはたかれる。こう見えて彼はとても面倒見が良くて、自分が我慢することが多いから、いつも私に気を使ってくれていたのかもしれない。
「ねぇ、ラクサス。」
「今度は何だ。」
「欲しかったら、言ってくれたらあげるよ?」
「…はぁ…。」
何故か彼は深く溜息を吐く。
「もともと大して好きでもねェんだ。それをわざわざ好きだって言う奴から奪うほどでもねェって言ったんだ。」
一言一言かみ砕くように言い聞かせてくれた彼のおかげで、やっと言いたいことが分かった。どうも私は今みたいに鈍い所があるからいけない。
「あったら、食べるんでしょ?」
「まぁな。」
「じゃあ、あげる!」
口に入れたポッキーはそのままに袋からもう1本を出して彼に差し出す。
そして意味が分からないと言うように片眉を上げる彼に言う。
「今日はね、ポッキーの日なの。一人で食べるよりも二人で食べたほうが美味しいでしょ?」
なんだそれ、と言って呆れたように彼が笑った。
「くれるってんなら、貰おうか。」
「むぅ…!」
僅かに残っていたはずのポッキーの端が大きな口に消える。キスしてしまいそうな距離よりもポッキーを盗られたことにショックを隠し切れなかった私は絶句した。
「え…。」
「何だ、足りねェってか?」
唇の端を引き上げる彼に吐こうとした否定の言葉は、今度こそ重なった口に飲み込まれた。