第6章 幸せで溢れた涙
そして迎えた式当日。
俺は柄にもなく三ツ谷が仕立ててくれたタキシードに着替え、親族控え室でじいちゃんに声を掛けた。
「じいちゃん、今までありがとな。つってもこれからも一緒に住むけどな」
「万次郎…オマエ、真一郎そっくりになったな…」
「ん?顔か?そりゃ兄弟だかんな」
「いや、強くなった。あの頃の弱いオマエはもう居ない」
「じいちゃん…」
「さくらちゃんのお陰だな」
「あぁ…そうだな」
「真一郎とエマも連れて来た、立派な晴れ姿見せてやれよ」
「うん」
話終えると、新婦のさくらが待つ部屋へ向かい、ドアをノックした。
「入るぞー」
「うん」
そこに立っていたのは、とても繊細な花のモチーフの刺繍が施され、スパンコールがキラキラと光るオフショルダーのウェディングドレスを身に纏った彼女だった。
まるで絵本の世界から飛び出して来たようなその佇まいに、思わず息を飲んだ。
「なぁに?固まっちゃって」
「いや…本当にさくらか?」
「もう!!結婚式の日まで失礼なんだから!」
「いや、悪ぃ…綺麗だよ」
「でしょ?私をお嫁さんに出来て良かったね?」
「ああ、本当に…良かった…」
「万次郎…なんで泣くの…!」
気付いたら二人で涙を流しながら抱き合っていた。しかしその涙は、幸福の涙だった。
彼女と出会った小六のあの日から今まで、本当に長かった。
楽しい事から苦しくて辛い事まで色んな出来事があった。
自分自身が堕ちて行きそうな時、幸せな家庭を作るなんて無理だと啖呵を切り、別れ話をして彼女を絶望感で打ちのめしたあの時に比べれば、今が夢のような世界に感じる。
「も…メイク崩れるじゃん。せっかく綺麗にして貰ったのに」
「大丈夫、オマエはどんな顔でも綺麗だよ」
「この優しさがずっと続けば良いのになー」
「はぁ?俺は毎日優しいだろ」
体全体で暖かく小さな彼女を抱き留めると、彼女は言った。
「万次郎。誕生日おめでとう」
「うん、ありがとな。最高の誕生日プレゼントだ。」