第6章 幸せで溢れた涙
「あぁ、マイキーはお任せっつったから俺なりにマイキーに似合う色とデザインで仕立てたけどどうだ?」
「うん、いい感じ。さすが俺のこと分かってんじゃん」
「当たり前だろ、総長」
三ツ谷はそう言って笑うと、彼女の方に行ってあれこれ話し始めた。
俺は来客用の椅子に腰掛け、自分のタキシードを眺めながら物思いに耽った。
お互いコツコツ貯めた貯金でやっと式が挙げられる。
じいちゃんと彼女の父から資金援助の提案があったが、お互い断った。二人の力で挙げたかった。
三ツ谷の好意で友達価格とはいえ、彼女に相応しい最高に綺麗なウェディングドレスを着せてやれる。
男としてこれ以上の幸せは無い。
「じゃ、マイキーのタキシードはピッタリだったから、オレがマイキーと会うのは式でだな」
「おう、よろしくなー」
「さくらちゃんはフィッティングして余った所あれば詰めるからまた来てね」
「うん、もうちょっとダイエットしてエステも行くんだー。またね、三ツ谷ー!」
「じゃな、三ツ谷ー」
「気をつけてなー」
バブで帰宅路を走るつもりが、俺の身体は自然とあの場所へと向かっていた。
彼女も何も言わずに俺の背にしがみついている。
そこはかつて来た海岸だった。入水自殺をしようとしたあの日以来、ここに来る事は無かった。
「さくら、ありがとな」
「ん、なにが?」
「俺を待ち続けてくれて。苦しかったよな、辛かったよな」
「なぁに…どうしたのいきなり」
「さっき三ツ谷と話して改めて気付いたんだ。なんも取り柄もねぇ暴力に支配された俺の唯一の希望だったんだよ、オマエがさ」
「………」
「そんなオマエと一緒になれて、結婚式まで挙げられるなんて奇跡だろ?俺は世界一の幸せモンだな」
そう言って振り返って笑みを見せた。彼女もニコっと笑ってくれている。
「来年からはまたここの祭り来ような」
「うん、万次郎!」
「さくら、おいで」
波打ち際で、月明かりに照らされながら抱き寄せた。
あったかくて、心地よくて俺たちは幸福に満たされていた。