第6章 幸せで溢れた涙
「万次郎、行くよー?三ツ谷が待ってる」
「うん。行こうか」
「おじいちゃん、夕ご飯並べておいたから食べてね。今日は鰈の煮付けだよ」
「ありがとな、さくらちゃん」
「じゃあじいちゃん、行ってくっから」
バブに跨りヘルメットを被って出発する。
夏の夜風が肌に張り付いた。
変わらず俺の背中には彼女の温もりがある。
「よー三ツ谷」
「ごめんね、待たせちゃった?」
「んー、別にいいよ。他にもやる事あっから」
「スゲェよなー三ツ谷は。マジで夢叶えちまうんだもんな」
俺は三ツ谷の仕事場をぐるりと見渡して感心して呟いた。
デッサンが描かれた大量の紙、生地のサンプル、どれもこれも俺の分からないものだらけがまるで宝石のように輝きを放ち散乱していた。
「…マイキーも叶えてんじゃん」
「はぁ?俺、道場やるなんてこれっぽっちも思ってなかったぞ」
「違ぇよ。もっと大事なモン」
そう言って三ツ谷は物珍しげに仕事場の中をしげしげと見物している彼女にチラリと目を配った。
「あぁ…そうだな」
「ねぇねぇ三ツ谷、出来た?」
「うん、出来たよ。見てみな。」
トルソーにかけられた布を三ツ谷が外そうとしたので、俺は思わず目を背けた。
「うわぁ、凄い綺麗…!」
「だろ?さくらちゃんが着たらもっと綺麗だよ。あれ、マイキーは見ねぇの?」
「見ねぇ。今俺が見たら当日が台無しだろ。今までどんだけ面倒くせぇ打ち合わせしたと思ってんだよ」
「おい、マイキー!?」
「万次郎!面倒くせぇってなに!?」
「面倒くせぇだろ!何回も何回も打ち合わせ打ち合わせって式場行ってよー」
「…面倒くせぇって言う割になんで笑ってんだよマイキー」
「はぁ?笑ってねーし!」
「さくらちゃん、ただの照れ隠しだ。気にすんなよー」
「万次郎照れてんの?」
「照れてねぇ。三ツ谷ー、オレのこれ?」
俺は赤くなった顔を誤魔化すようにして、目の前のトルソーが着ているタキシードを指さした。