第1章 8月の夜
花火が終わり、人々が散っていく。オレ達もバブに跨り発進した所だった。
どことなくボーッと運転していると、後ろからの声に気付きハッとした。
「…じろー…万次郎?」
「ん、あぁ悪ぃ。なに?」
「…ううん、私海に行きたいな。」
「海?」
いつもなら面倒くせぇと答えてしまう所だが、寂しげな声にそんな反応を返す事は出来ず、ここから一番近い海岸へ向けてハンドルを切った。
「着いたぞー。」
「わぁ、凄い!万次郎も来なよー!」
「待てよ、早ぇっつーのー。」
彼女がトントンと身軽に砂浜に足跡を残して行く、俺はその後をゆっくりと続いて行った。
波打ちきに立つと、彼女はポツリとつぶやいた。
「…万次郎。」
「ん?」
「私と居ても楽しくない?最近ボーッとしてばっかり。」
「違ぇよ?最近色々あったの、お前も知ってるだろ?」
色々、それはパーが出頭し、ぺーが東卍を裏切ろうとしケンチンが刺されて生死の境を彷徨った一連の事件のことだ。
彼女は黙って頷いた。
「…怖いんだ…。」
「怖い?」
今まで怖いなんて言葉を口にした事が無かった為に、彼女は息ん飲んで驚いていた。
「大事なモン、一つ一つが手からこぼれ落ちていく感覚がするんだ…。それが東卍やってるせいだとしたら?」
「そんな事無いよ…。東卍は皆の為に作ったんでしょ?」
「さくらまで失くしたとしたら?とにかく怖ぇんだよ…。」
「万次郎…。」