第1章 8月の夜
祭り会場に着くと出店が並び、暗くなった空にその灯火が賑やかに浮き立っていた。
誰も彼も楽しそうな表情をしている。
「さくら、これ食おうよ。」
「ん?さっきから甘いものばっかり!ご飯もの食べたいよー。」
「じゃあ、いつも通り半分ずつ食おうぜー。」
「いいよー。あっちで座って食べよっか?」
彼女が指さした方向にはちょっとした腰を下ろすスペースがあり、人垣を抜けるとそこへ座り込んで、先程購入した綿飴を頬張った。
「やっぱ綿飴は美味ぇな。」
「万次郎、それ砂糖の塊だよ?」
呆れたように笑いながら俺の横顔を見つめる視線に気付き、俺はぷいと顔を逸らした。
「うっせーなぁ。良いだろ別に。」
「あ、怒った。」
むくれながら食べていると、ドンと大きな音と共に漆黒の夜空に色とりどりの花火が咲いた。
「万次郎、花火だよほら!綺麗だね。」
「…綺麗だな。」
俺は花火は見ずに、彼女の頬に触れた。浴衣姿の綺麗な彼女に見蕩れてしまったのだ。
「なぁに?万次郎。」
「いや、なんでもねぇよ。」
彼女は俺の手に自分の手を重ねると、目元を弛め口角を上げて言った。
「ねぇ、誕生日おめでとう。」
「ん?今日だっけか。」
「そうだよー。はい、これプレゼント。」
「シルバーリング?」
「うん、…万次郎がどこにも行かないように。」
「…なんだそれ。首輪かよ?」
「うーん、上手く言えないけど…いつでも戻って来れるようにって。」
左の薬指に着けるとサイズはピッタリだった。ピカピカのそのリングは渋く輝いていた。
「ありがとな。」
俺はそう告げると優しく頭を撫で、もう一度頬に手を添え口付けた。