第5章 不完全で不器用な
翌朝、俺は彼女より先に目覚めてその愛らしい寝顔を見つめていた。連日余程眠れていなかったのか、0時前に寝てからもう9時を過ぎようとしていた。
そのうちにピクリ、と瞼が動く。
「まん、じろ…」
「ん?どうしたさくら」
「…っ、万次郎!!」
大声を出して急に目を開けた彼女にこちらもビクッとしてしまった。
「良かった…居なくなってない…」
「言ったろ?居なくならねぇって。おはよう、さくら」
「うん、おはよう万次郎…」
少しだけ安心したように笑うと、俺の胸に恐る恐るピタッとくっついてきた。
俺は触れることはせずに、黙って受け入れた。
抱き締め返したい、背中を撫でて落ち着かせてやりたい。
そんな気持ちをぐっと堪えて、きっと自分から触れる分には安心するのだろうと察して気の済むまでそのままにしていた。
「万次郎、ご飯食べる?」
「へ?」
「お腹、鳴ってるよ」
「なんか…すげぇ恥ずいんだけど」
「あは、くっついてるとよく聞こえるの。何食べたい?」
「んー、目玉焼きだな。焼き方は」
「黄身潰して裏返したやつ、でしょ?」
そう言って口角を上げると、ベッドから起き上がってんーっと背伸びをした。
「分かってんじゃん。」
「後は昨日の余りものでもいい?」
「ん、さくらが作ったモンならなんでもいい。美味ぇからな。」
「そう?あっ、万次郎ご飯食べたら髪の毛やってあげるね。ボサボサになってる!」
「んー、いいよ。中学出てから自分でやってたから。流石にもう出来るよ。」
「いいから、私がやりたいの!あの頃みたいにさせてよ?」
「散々ガキ扱いしてた癖に今度はやりたいってか、我儘だなー。でもまぁ、やってくれるならやってよ」
ニッと笑うと、彼女は懐かしそうに表情を弛めた。
起きた時に俺が居て、余程安心したのだろう。
昨日より表情はいくらかマシに見えた。
「んじゃ、出来たら呼んでー。俺まだベッドにいる。」
「こら!起きて顔洗う!万次郎起きて来ないんだから!」
「えー、まだ眠いんだけど俺。」
「後で一緒にお昼寝しよ?それなら良い?」
「ん、それなら良い。」
こうして寝巻きの袖を引っ張られ、脱衣所へ向かい顔を洗って一緒に朝食を摂った。