第5章 不完全で不器用な
「万次郎、もう寝よっか。」
「ん、もうそんな時間かー?まだ23時じゃん。」
「病院だったら21時消灯でしょ!ほら歯磨いて!」
「いてっ、怪我人にもっと優しくしろよな。」
「口だけ達者の怪我人なんだから動く!」
頬を抓られ、渋々寝る支度をして彼女の部屋に行く。
二人一緒にベッドに仰向けに横たわった。
「狭くない?」
「ん?さくら小せぇから大丈夫。」
ギュッと小さな身体を抱き寄せようと手を伸ばすと、バシッと手を払われた。
「やめて!!」
「痛っ…なんだよさくら。」
「違っ、ごめん万次郎。そういうつもりじゃ…!」
「小せぇってバカにしたワケじゃねぇよ?そこが可愛いんじゃん。つーか俺も小せぇしな。気ぃ悪くした?」
代わりに髪の毛を撫でようとすると、その手すらビクビクと怖がった。
「やめ、やめて…!」
「…さくら…、ごめん。」
その先の言葉を紡げずに、俺は情けなく宙ぶらりんになった手を引っ込めた。
いくら好きあっている相手でも、『男』という存在そのものがトラウマになってしまっているのだ。
そんな事に気づかず、安易に触れようとして恐怖心を煽ってしまった。