第1章 8月の夜
祭り当日、さすがにバイクのケツに乗るには浴衣はどうかと思ったが、多少崩れても自分で着付けが出来ると言うので浴衣で来るという彼女を迎えに行った。
自宅マンションまで着くと着信をかけ、開口一番に俺は告げた。
「さくらー!着たぞー。」
「はぁい。ちょっと待ってー!」
「んー。」
通話を切ってバブに乗ったまま少し待つ。俺はいつもの甚平で来ていた。
そういえば浴衣姿は見たことねぇな、なんて考えていると、目の前には紺を基調とし百合の花が花火のように鮮やかに咲いている浴衣を着た彼女が立っていた。俺は思わず目を奪われた。
「ごめん万次郎、髪セットするの時間かかっちゃった!」
「別にいーし。ほら行くぞ!」
「えー、浴衣姿どう?」
「言わねぇ。」
「もー。万次郎っていっつもそう。ナンパされても知らないからねー。」
「ナンパした奴は殺すから心配いらねーよ。メット被ったか?行くぞ?」
「うん!」
バブの排気音が鳴り響く。腹にギュッと腕を回されながら走るのが俺は大好きだ。