第4章 息が出来ないほど
彼女に支えられ起き上がると、俺も続いて家の中へと入り、勧められた通りダイニングテーブルへと腰掛けた。
「さくら、席を外してくれるか。」
「うん…。」
彼女は俺と彼女の父にお茶を出すと心配そうにこちらを見て、リビングから出て行った。
「佐野君、手負いの君にいきなり殴り掛かって済まなかった。」
出て行ってすぐ、冷静さを取り戻した彼女の父は俺に謝罪をした。
「いえ、俺が悪いんで…。」
「あの日以来、病院に行くなと言っても聞かなくてな。娘も余程君の事が好きらしいな。」
「………。」
「何か変わった事は無いか?夜も泣き声が聞こえてきて、眠れていないみたいなんだ。」
俺は一瞬伝えるか迷ったが、口を開いた。
「今日…30分くらい席を外した時間があったんです。どこ探してもいなくて、見つけた時には屋上のフェンスからボーッと下を覗いてました…。」
「………そう、か。」
余程ショックを受けたのだろう、口を噤んでしまっている。
「菊池さんが良くねぇって思ってても、俺は今日からしばらく自分の家に泊まらせるつもりでした。だから無理矢理退院したんです。俺が見てなきゃ…居なくなっちまう気がして…。」
「………。」
「すみません、勝手な事言って。」
「いや、正直私も目が離せなかった。家は母親がいないだろ?でもいつまでも仕事は休めない。これから長期出張が入るんだ。さっきあんな事言っておいてなんだが…娘を見ていてくれないか?」
「いいんですか?」
「ああ、このマンションはセキュリティも万全だし、万が一変な輩が入って来る事も無い。ここに居てくれて構わないよ。これ、スペアのカードキーだ。さくらの覚悟を聞いてさっき出しておいたんだ。」
「ありがとうございます。」
「また娘を笑顔にさせてくれ。そしたら…結婚も考えてもいい。」
「え…!?」
「ただし、今度こそ絶対幸せにして貰わないと困るがな。」