第1章 8月の夜
「夏祭り行こうよ!」
8・3抗争の後しばらく経った夏の終わりに、彼女は元気いっぱいに俺に声を掛けた。
「はぁ?祭りー?そんな気分じゃねぇし。」
「今年は夏らしい事してないよ?千葉の方までバブに乗っけてよ。」
「んー、去年と一昨年行った所か?」
「そう!あそこのお祭り好きなの。」
過去の記憶を手繰ったのか、にっこりと微笑んだ彼女に意地悪く言葉を返してみる。
「場地か三ツ谷と行けよ。俺は行かねぇ。」
「なんでそんな事言うの…私達付き合ってるんだよ?」
この世の終わりみたいな顔をしている彼女が愛おしくて、エアコンが効いているのかいないのか分からない蒸し暑いこの俺の部屋のベッドの上で、彼女をそのまま押し倒した。
「万次郎…?」
「んな哀しそうな顔すんな。冗談だよ、今年も一緒に行こう。なっ!」
「やったぁ!」
「大体、お前がバイクのケツ乗っていいのは俺のバブだけだ。忘れちまったの?」
「んーん、忘れてないよ。絶対忘れないよ。」
「うん、偉いぞさくら。」
「万次郎の言ったことはこれからも忘れないからね。」
「あぁ。」
ピッタリとしたTシャツと短パンから無防備に覗く真っ白な手足を見て思わず息を飲む。
俺はシャツの下に手を入れ、ツーっと身体をなぞった。
「オマエ、誘ってんの?」
「ん、っ…!」
「抱かせて。」
そのまま首筋に齧り付くと、彼女を想う愛おしい気持ちが顔に出てバレてしまわないように必死にその白くて小さな身体を抱いた。