第3章 瞳に映るは
息も上がり、視界もボヤけている。80人ほどの人間相手に勝てるかと言われたら、今の状態じゃ無理だろう。
それでも最後まで抗いたかった。
「マイキー殺した奴がトップで良くねぇ?」
「そうだな、殺したモン勝ち。
」
「マイキーの女もソイツのもんって事で。」
「サイコーじゃん!」
向かってくる相手を一人一人殴り、蹴り倒す。
大怪我を負っているとはいえ、この程度の奴等は何とか一蹴出来ていた。
その途中、突如胸の傷を殴られ失神しかける痛みが襲った。
「ぐっ………。」
「万次郎…!!」
ガクンと地に膝を着く。痛みのあまり呼吸が乱れ立つことが困難になってしまった。
俺は笑顔で振り返り声を掛けた。
「さくら…今までありがとな。」
「そんな顔で、見ないでよ…!」
「死ねやマイキー!!」
金属の棒を頭に振りかざされる。
死を覚悟した瞬間、目の前の相手が視界から消えた。
「マイキー、死にかけじゃねぇか。」
ボヤけた目で見上げると、そこには金の辮髪、コメカミには龍の刺青。
かつての相棒が立っていた。
「は、ついに幻覚か…?」
「あ?幻覚じゃねーよ。ホンモノだ。」
「ケンチン…?」
「俺だけじゃねぇ、皆来てる。」
全体を見渡すと、かつての東京卍會のメンバーが当時の特服に袖を通し乱闘に発展していた。皆喧嘩の世界から退いていたはずだ。
ケンチンは手際よく刺された箇所を布で縛って止血してくれている。
「なんで…。」
「朝さくらちゃんから連絡があった。匿おうとしたら連絡取れなくなっちまって、東卍の連中に連絡しながらここのアジト探してた。」
「そうか…っと。じゃあ寝てる訳にはいかねーな。」
「おい、テメェはそんなモン脱いでこれ羽織って休んでろ。」
ケンチンは東京卍會のオレの特服を投げて渡した。
その言葉に俺は笑い、関東卍會の特服の上着を脱ぎ捨てかつて大好きだった特服に袖を通して言った。
「東卍の皆が戦って総長が寝るなんて有り得ねぇだろ?」
「ったく…相変わらず我儘な総長だな。」
「三ツ谷、さくらを頼む。」
「うっす。マイキー、死ぬなよ。」
「万次郎…やっぱりその特服の方が似合うね…今度こそ、ここで待ってる。」
彼女が気力を振り絞って笑ってくれた。
俺はその言葉に頷き、背中を向けた。