第2章 恋焦がれた
砂浜に上がり、見られないように顔を拭うと俺は彼女の正面に立ってまじまじと二年ぶりにその姿を見た。
服もサンダルも濡れてしまっている。小さな身体は少し震えていた。
「服、びっしょびしょだね。」
「…悪ぃ、風邪引くなよ。」
「大丈夫、元気だけが取り柄だから!」
「大人っぽくなったな…少し背伸びたか?」
「うん、髪も背も伸びたの。万次郎には届かないけどね!」
「制服も…似合ってんな。」
「見せたくてこれで来ちゃった。去年も。」
「そうか…。」
「去年来てくれなかったんだもん。寂しかったよー?」
彼女はやはり去年も来てくれていたのだと言う。
一向に来ない俺を一日中待ち続けるのはどれだけ辛かったろう。
それでもあの時と変わらない笑顔の彼女に、心がポカポカと暖まる感覚がした。
「約束した指輪は持って来れなかった。汚ない金で買った指輪はさくらには渡せねぇ…。」
「万次郎…。」
「でも俺…許されるならオマエと家庭を作りたい。」
「え…?」
「俺と結婚して欲しい。」
「万次郎……!」
「でも、そうなるにはチームがデカくなり過ぎちまった。」
「ん?」
「今俺がチームを抜けるか解散なんて言ったら、確実に揉める。前の東卍みたいに簡単に辞められねぇ。対立してるチームもいるし、言いたくねーけど、最悪死ぬかもしれねぇな…。」
「え…やだよ…そんな事言わないでよ!」
「さくら、これがオレが今までしてきた事のケジメだ。たくさんの人間を傷付けて来た。…オマエも、東卍の仲間も。」
「万次郎…。」
「ガキのお遊びじゃ済まない所まで足を突っ込みかけようとしてる連中もいる…それだけ危ねぇ所にいるんだよ。」
「………。」
「最後はオレ一人でカタをつける。それが終わるまでオマエは俺と他人だ。万が一の為にケンチン達に頼って匿って貰え。」
「一人だなんて無茶だよ!」
「何言ってんだ?俺は今まで負けた喧嘩はねーんだよ。なっ!」
「…約束して。生きて戻って来てよ。じゃないと私もすぐ追っかけるから…っ。」
「あぁ、約束だ。そしたら俺と結婚してくれ。」
「うん…っ。」
二人で泣き笑いしてもう一度正面から抱き合うと、近くのホテルへバブを流した。