第2章 恋焦がれた
「万次郎!やめて、ダメだよこんな事しちゃ…!!」
「…っ、さくらか?」
「そうだよ、誕生日おめでとう。万次郎。」
「離せ、俺はもう疲れた…オマエの知ってる俺で死なせてくれよ。」
「ダメ、死なせない。どうしようもなくなったらここに来るって言った…万次郎、辛かったね。別れ話の時、気付いてあげられなくてごめんね。」
「うるせぇ…もういいから離せ!」
止めて欲しくて叱って欲しかったはずなのに、正反対の言葉ばかりが出てきてしまう。
彼女の言葉に心が揺さぶられ、ついに感情が爆発して堰を切ったように涙が溢れて来る。
何の涙かは分からなかったが、自分もまだ泣けるのだと頭の片隅でぼんやりと考えた。
「ここに来た時は結婚するって言ったでしょ?まだ約束果たしてないよ?」
「は、バカか?俺なんかと結婚出来ねぇよ。」
「出来るよ、今日で万次郎は18歳。もう紙一枚で結婚出来るもん。だから…死ぬとか…言わな…でっ…!」
回された腕と俺を必死に説得する声が震えている。
二年前手を上げて来た相手が入水自殺しようとしている、それを止めようとするだけでも相当勇気がいったはずだ。
それなのに服が濡れるのも構わず引き止めた上に、そんな俺とまだ結婚したいと言っている。
俺はそれ以上進むのをやめて、彼女の手を引いて砂浜に上がった。