第22章 伝える①
「体調平気か?」
「おう、余裕」
案外平気なもんなんだなと思った。
もちろんの体調の事だ。
たこ焼き、ホットドッグ、綿飴、チョコバナナ、りんご飴……その小さな体には到底入りきらなそうだが、はじめてのお祭りの屋台に興奮しあれもこれもと手当り次第買いまくっていた。どうせ腹いっぱいで食えないとか言い出しそうなので、オレは余計なものを腹に入れないようにしている。そうしてやれる事に喜びを感じる。自己満足の範疇だが、彼のために自分が何か出来ていることがただ嬉しい。
「そういえば今年も花火あるみたいだな」
「花火?」
「おー。でっけぇやつ」
「マジか!絶対見るぞ、千冬!」
「おう、見ような」
こんなに目にめえてはしゃいでいるは初めてだ。連れてきてよかった。
この鳥居の奥には、まだまだ見ていない屋台が沢山ある。
普通に元気そうだし、見にいってみようと人混みの中で彼の手を握ると、異様に冷たかった。さっきまで手に持って飲んでいたラムネのせいだろうと思いながらなんの気なしに顔を覗き込んだ。そして、なんでもっと早く気付いてやれなかったんだと自分を呪った。
「……、こっちこい」
「へ?なんでだ、そっちは何もないだろ」
「いいから」
「……千冬?」
冷たい手を引いて、喧騒から逃れるように向かったのは神社の裏山。
石の階段の頂上まで上がれば、屋台と街がよく見える。
この祭りには何度も来ているが、こんな見晴らしのいい穴場があったのは今初めて知った。
「そこ、座れよ」
広めの石階段のてっぺん。ここなら、2人で座って先程買った食べ物を置きゆっくり食うには十分なスペースだ。
座るよう促した自分の声は、少し怒りを孕んでいたと思う。それはにも伝わったらしい。
「千冬……?なんで怒ってんだよ」
「怒ってねーよ」
「嘘だ、不機嫌だろお前」
「………なんで言わねえんだよ」
「え?」
ため息混じりに呟く。
早く気付いてやれなかった自分が情けねえし、こんな青白い顔をしながら頼ってもらえなかった事も悔しいと思った。