第16章 息
初めての国際コンクール、結果は最優秀賞。
名前が呼ばれた瞬間、全身が震え上がった。
舞台にあがり、コンクール実行委員の代表から受け取ったトロフィーがやたらと重く感じた。
客席にいる千冬をみると、お母さんと一緒になって嬉しそうに拍手をしていた。さっきの事なんかなかったみたいに。
『ごめん、忘れて』
「無理に決まってるだろ!!」
「なにが?」
「なにが?じゃねーよ!」
怒涛のインタビュー地獄を終えて、お祝いにたらふく食わされやっと解放されたオレ達は、部屋に戻りソファーに雪崩込んだ。
タキシードはとっくに脱いで、今は私服に眼鏡。やっぱこれが落ち着く。
因みに、千冬に頼まれて着替える前に写真を撮った。友達と写真を撮ることをした事がなかったから恥ずかしかったが、思い出の1枚になったと思う。
いや、その事はいい。それじゃない。俺は、千冬に問い詰めなくてはいけない。
「お前なんでキスしたんだよ。俺のファーストキス奪いやがった」
「いや、それは…」
「お前のことだから、あんまりにもテンパってる俺の気を紛らわそうとしたんだろうけど。にしても悪手だ。お前マジで馬鹿だろ」
「反省してます」
珍しく聞き分けがいい。よすぎて怖い。
それだけ反省しているのだろうか?俺にはわからない。
ぶっちゃけこの先俺に彼女なんかできる気がしないし、そこまでファーストキスに重きを置いているわけでもないのでそれ以上責める気もない。まあ、できれば好きな人としたかったが。それよりも今は解放感と達成感でいっぱいだ。
「はぁ…。もういい。それより千冬、ありがとな。俺、演奏終わったあと超パニクってて、どうしていいかわからなかった。不安でしかたなかったから、お前が来てくれて本当に安心したんだ。だからキスは許してやる」
「ホントか!?」
「うん。お前いなかったら俺足ガクガクで会場戻れなかったと思うから。役に立ったぜ」
「下僕かよ」
ワルシャワ行きの切符を掴み取り、無事アジアコンクールは幕を閉じた。
実感がない。だけど現実だ。
俺はこの場所で燃えていたい。
何を犠牲にしても、燃え尽きてもいい。
灰になるまでは、天高く燃え上がりたい。
そう思うのは、冷めることのない、内から湧き上がる焔のせいだ。