第2章 あたたかな人
「取れましたよー……」
使った手ぬぐいをしまおうとして、ふと自分が何をしたのかに思考が追いついた。
(な、なんてことを…)
自ら顔見知り程度と思っておきながら、自分は何をしたのか、そこまで親しくない男性の頬を撫で……。
かかかと頬の温度が高まるのを感じ、恥ずかしさに視線を下に向けた。
(はしたないと思われたかしら…)
そう思考を巡らせていると、
「有難う、君は優しい方なのだな」
そう、元気な声がきこえ、ふと視線を上げると、ことのほか柔らかい視線が自分に向けられていた。
「い、いえ…」
やっとのことで返事をした雫に、煉獄はふと何かに気がついたような仕草を見せ、今度は自分の方へとその手を近づけてきた。その男らしい手がかすかに自分の左頬に触れる。すぐに離れているその手を視線で追っていると、そのまま煉獄と視線が交差した。
「髪を食んでいた、女性は髪が長くて大変だな」
楽しそうに笑う煉獄に、色々な意味でさらに頬が熱くなる。人の頬を拭っておいて、自分も髪を食べているなんて、そうぐるぐるしながらも、先ほど煉獄の指先が触れた頬に自信の手をあてる。
見た目通り、暖かい手だった、ほんの少しではあったけれど、しっかりとした男性の手で…。
そこまで思い巡らせて、再び自分の思考を追い払った。
(この人に会うと、どうしても調子が狂ってしまう…)
それもこの男のもつ雰囲気のせいなのだろうか、と考えながらあんみつを一口運んだ。目の前の男は自分がこんなにも考えているなど思いもよらないのだろうと、少し恨みがましく思いながらも、元気に団子を食べる姿に、どこか心が温かくなっているのを感じた。