第2章 あたたかな人
その日、仙堂雫は少し混乱していた。
町角で偶然出会い、印象強かったため覚えていた男性、その後も町で何度か見かけることはあったものの、特に親しいというわけでもなく、何度目かの邂逅でやっとお互いを認識した程度だったはずだ。
今では目が合えば会釈をするくらいで、例えば一緒にどこかへ行くだとか、例えば食事を共にするだとか……そのような仲ではなかったはずだ、多分。
そんなしつこいようだが顔見知り程度の彼ーー名を煉獄杏寿郎というらしいーーは今何故か雫の隣で団子を食べていた。うまいうまいと、とても元気に、響き渡るような声で言いながら、つみ上がった団子をどんどんと
消化していく。
何故こうなったのか、そうだ、今日は久々にお気に入りの甘味処であんみつでも食べようと家を出たのだ、そして客でにぎわう店内で席につき、少し後に煉獄が店を訪れ…そして、いつものように目があったため会釈をした。すると幸か不幸か満席だった店内でそのやり取りを見ていた女将さんから、お知り合いならちょうど良かったとばかりに相席を勧められ、言い返すこともできず、今に至る。
(まあ、嫌というわけれはないけれど…)
そうあんみつを一口食べながら雫は目の前の煉獄を見つめた。
豪快に団子を口に運んではいるが、決して下品ではなく、どこか育ちの良さを思わせる食べ方に、きっと良い家の人間なのだろうと思いながらも、その頬に小さく餡がついているのが見えた。
「あの、ついていますよ」
そう言いながら自身の右頬を指すと、同じように右頬を拭う煉獄、いまいち場所がわからないようで、いまだ頬には餡がついていた。その仕草に少しの幼さを感じ、雫は小さく笑いながら手ぬぐいをもち、煉獄の左頬を拭った。