第9章 海(サリエル)
温度をなくした白くまぶしい世界の中、私とサリエルさんはお山に穴をあけて手を繋いでいた。サリエルさんの後ろ、視界の端にある海の家から日焼けしたおばさんがスコップを手に近づいてくる。おばさんは何か話し、にこやかにスコップを二つ置いて海の家に帰った。今度は砂のお城を作ろうと言い出した自分にサリエルさんは付き合ってくれたのだった。
あの時、夜更かして本を読んでたのが祟って机でうたた寝しちゃったんだっけ。起きた時涎が垂れそうで危なかったな。目の前のサリエルさんには涎を垂らしかかった顔を観察されてて今でも恥ずかしい……
――ベル……ベル?
サリエルさんの声で現実にはっと引き戻された。
「ぼうっとしているようでしたが、どうかしましたか?」
「ふふ……なんでも。それより、お山に穴を空けて手を繋ぎませんか?」
「まったく……あなたは子供のようですね。嫌と言うわけがありませんよ」
お山に穴をあけて砂だらけになった手でサリエルさんの手を握った。サリエルさんと過ごす平穏な日の幸せを私は噛み締めた。