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イケメン王子1口サイズ小説集

第9章 海(サリエル)


ザァー……

 透き通った綺麗な水が砂浜に押し寄せては引いていく。物語の世界でしか知らなかった海はどこまでも青く、この時期にふさわしい生温かい日差しが水面をキラキラと細かく輝かせていた。砂浜にはぽつんと海の家があるだけだが、不思議と寂しさを感じさせなかった。
 仕事でベニトアイトに来たサリエルさんと私は、休日に私の希望で海を歩いていた。お互いシャツ姿で水に濡れないようにと、腕まくりをしている。しゃがみこんで砂浜を見つめると、小さな貝殻が砂の中から顔をのぞかせていた。まるで宝物を発掘しているような気分だ。私は小さなホタテの様な形の貝殻を掘り出してコロンと瓶に入れた。瓶の半分は乱獲した宝物が詰まっている。
 しかし、こんなに美しい景色を見て可愛らしい貝殻を二人で集めているというのに、私の心には1つ気がかりがあった。

「サリエルさん、私の我儘に付き合ってくれてありがとうございます。自分から言っておいてなんですが、ただでさえサリエルさんは疲れているのに本当に散歩に付き合ってもらってよかったんですか?」

 サリエルさんはいつも忙しい。エールという酒で気晴らしをするし、まともな睡眠すらとらない。加えてベニトアイトに出張しているのだから、絶対に疲れているはずだ。折角来たのだからしたい事はあるかと聞かれ、海で貝殻を拾いたいと答えたはいいが、やはり心配ではあった。

「ええ、いいんですよ。子どものような願いでも素直に口にしてしまうあなたは私の癒しです。あなたが満足なら私も満足なのですから、気にしないでください」

 年甲斐もない遊びではありますが。そう言ってサリエルさんは私が持っていた瓶に白と黒のまだら模様の貝殻を1つ入れた。正直疲れが取れるわけがないとは思うが、本人がいいならいいのだろうか。

「そうだ、貝殻はかなり集まりましたし、砂のお山でも作りませんか?」

 サリエルさんと一緒に白いサラサラの砂に水をかけてかき集めた。そうだ、この光景は……

 いつの日かの記憶がフラッシュバックした――
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