第6章 いつも通り(リオ)
静まり返った玉座の間にベニトアイト国王の声が響く。
ベルが爵位を授与される大事な時だというのに、今にも泣き出しそうな曇り空で玉座の間は薄暗い。
ゆら、ゆらとわずかな隙間風が近くの蝋燭の炎を揺らしている。
数年前、この国での立場を確かなものにしたいと言ったベルは出版社を設立し、今では巨万の富を持つ富豪だ。今日は文化の発展や識字率の向上に貢献したとして、男爵の爵位を授与される事になっていた。
男爵のブローチを受け取るベルを最前列の席からぼうっと眺める。ベルは令嬢らしい綺麗で自然な笑みを浮かべている。いつの間にそうなったのだろう。
最近、ベルと過ごす時間は益々減っていた。出版社の仕事に妃としてのレッスン、自身の王子としての公務でお互い忙しい。にも関わらず、夜、一緒に過ごす時に見せる無邪気な笑顔だけでは満足できなくなっていた。しかしこれ以上は過干渉だろうか。
バリィッ
一瞬眩い光に包まれたと同時に、木でも割れたのでは無いかと思うような鋭い音が聞こえた。
「リオ?」
顔を上げれば、ベルが目の前で不思議そうにこちらを見つめている。
「もう式は終わったよ。帰ろう?」
青色のドレスに身を包んだベルはそう言っていつも通りの笑顔を浮かべた。まるで天使だ。
「ごめん、ちょっとぼーっとしてた。帰っておやつタイムにしよっか!」
ぱっと笑い、手を繋いで玉座の間を後にした。