第1章 4月
日中眩しい程照らしていた陽射しはオレンジ色へと変わりはじめ、薄いピンク色の花びらが窓越しにひらりと舞い落ちる様子を横目に、生地を胸元に抱えて廊下を小走りで過ぎる。
高校2年生になった。
去年まで膝の真上にあったスカートのヒダは大胆にも膝上15センチまであげ、朝から友達には「似合ってる」とか「そっちのほうが良い」とか褒められてちょっと⋯いや、かなり嬉しかった。
でも、あの人は褒めてくれるだろうかー⋯
ーガラッ
古びた校舎の扉は音を立てて開かれる。
そこは、私の嫌いだけど好きな場所。
「お疲れ様でーす!」
「ウッス。」
家庭科室では、手芸部の活動が行われている。
かくいう私も部員の一人。
裁縫は好きじゃない。どちらかというと嫌いかもしれない。
不器用だからではない。むしろ器用で、手芸部でも頼りにされている方だ。
ただ、細々した地道な作業が嫌いなだけ。
それでも一年以上もこの手芸部に所属して作業がつづけられるのは、
誰よりも早く家庭科室へと踏み込んでいたこの男のおかげ。
その男は、私の身なりを見ると一瞬驚いたように目を見開く。
「ちょっと、短すぎねぇ?」
指で頬をかきながら、苦笑いを浮かべる男は、私の想い人。
三ツ谷隆ー⋯。