満月の夜に【鬼滅の刃 煉獄杏寿郎 宇髄天元 R18】
第42章 Chocolate play ※《宇髄天元》
多くの中の1人になりたくなかったの。
ただ勇気がなかっただけなのに言い訳みたいに繰り返した。
渡す勇気なんて持ち合わせてないのに丁寧にラッピングしたチョコレートを鞄に忍ばす。
伝えられなかった気持ちは一体どこへ行くのだろうか。日が沈みかけた校舎はひんやりしていた。
生チョコ、ガトーショコラ、マカロンショコラ、ザッハトルテーー一年で一番甘い日のバレンタインは、前日から仕込んだ甲斐があって、恋人の宇髄が帰ってくるまでにラッピングまで終わらせた。
甘さはまあ控えめにしたけれど、気づけば作りすぎたかもしれないーーー。
ラッピングに入りきらなかった余りは冷蔵庫にも入っている。一息ついたところで今度は不安になってきた。
というのも彼はあまり甘いものは得意ではない。
いつも飲んでいるコーヒーはブラックだし、お菓子だって食べているところをあまり見たことがない。棒つきキャンディやガムをよく食べているが、それはただ絵を描く作業に集中するための糖分補給だと言っていた。
余ったチョコレートの残りをホットミルクに入れて、ふうと息を吐いた。
ーーと、がちゃりと玄関が開く音がする。
ただいま、と発する声はどこかしら疲れている。あーくっそおめぇ…。玄関のほうへと向かうと、大きな段ボールを抱えた宇髄が疲れた顔でそう呟いていた。
段ボールには可愛くラッピングされた可愛らしいバレンタインの贈り物がぎゅうぎゅう詰め込まれていた。
「…今年も大量ですね。おかえりなさい」
今年はいらねーっつってんのに勝手に美術準備室に置かれた。しょうがないから段ボールに入れておくとポイポイそこへ放り込まれ、結局放課後にはこんな量になってしまった、とのこと。
「全部お前にやる」
「え、…食べきれないでしょ」
呆れたようにそう言う。
それにこれは宇髄さんのだよ、ちゃんと受け取って食べなくちゃ。と言おうと思ったけど胸がつかえて言えなかった。じわじわと嫉妬心が身体中駆け巡って、うまく言葉が出てこない。
「俺はお前のだけあればいいや。
早く食べたい」
ポンと優しく頭を撫でられた声は優しい。
たぶんきっと、わたしの醜い嫉妬心に気づいてしまったのかもしれない。宇髄の耳は特殊なので。