満月の夜に【鬼滅の刃 煉獄杏寿郎 宇髄天元 R18】
第34章 くらし、始まる※《宇髄天元》
ドンと山盛りの天丼が運ばれてきた。
宇髄はそれを大きな口で頬張り、おかわりまでしている。
波奈は食欲がなかった。
それでも一口一口に口に運んで、懸命にそれを食べた。
ここはよく隊士たちと来たことがあるご飯屋で、だいたいは甘露寺蜜璃と煉獄杏寿郎が何杯目か数えられないほど平らげていたのをよく覚えている。それを呆れながら見る宇髄天元の姿も、よく覚えている。ついさきほどのことだったように思うのに、あの時間はもう戻ってはこない。
「…痩せたな。さらにちまっこくなってんじゃねーか」
宇髄が必死に食べる波奈を見て、ゆったりとそう言った。
「…い、忙しくて」
「…落ち着かねえな、いつまで経っても」
は、と息をついた。
聞けば宇髄は、不死川実弥と冨岡義勇と共に亡くなった隊士の遺族への慰問を行なっているそうだ。
大層気の使うことで、精神的に参っているらしい。
それでも宇髄は宝石が付けられた額当てには負けずに、誰もが振り返るぐらいに優美で艶やかだった。
波奈は久しぶりの、宇髄の顔にホワっと見惚れていると、宇髄がその視線に気づいてパチンと波奈と目があった。
波奈は慌てて目を背けた。
「…あっ、…えと、奥様方はお元気ですか?
この間雛鶴さんが来てくださって、」
「嫁たちなら家を出た」
「……え?!ど、どうしてですか?」
「あぁ。そういう約束だったんだよ。
鬼の党首を倒したら互いに自由になろうってな」
もともとあいつらは家族みたいなもんだ。親が決めた相手で、恋愛感情はお互いない。と、
たんたんと説明しながら、また天丼をさくりとたいらげている。