満月の夜に【鬼滅の刃 煉獄杏寿郎 宇髄天元 R18】
第31章 答えはでない《不死川実弥》
「…さて、どーしたもんかねェ…」
頬杖をつきながら、呆れたように不死川はつぶやいた。
「どーすればお前は俺のこと信じてくれんのかねェ…」
ため息をつきながら言う不死川は、どこか悲しそうだった。
…まァ、俺のせいだわな。
不死川はまだ涙を溜めている波奈を見つめながら、どうしようもない不甲斐ない自分を責めた。
波奈の気持ちは知っているが、それに応えることは今はできない。かと言って突き放すこともできずに、だらだらと2年半が経つ。
電話やメールはたまにするし、こうやってお茶やお菓子を出したり、2人きりになるために立場を利用したり、教師としてそれはどうなのだろうと悩むこともある。
…いっそのこと、波奈から離れて、もう俺なんかじゃなくて、高校生らしい恋をして恋人を作ってくれれば、とも思う。
…いや、ないな。そんなことをされたらこちらとて嫉妬でどうにかなっちまいそうだった。
好きで好きで頭がおかしくなりそうなくらいだった。
「……い」
「あ?」
「キス、したい」
一通り泣いて落ち着いた波奈は、突拍子もなく言い放った。
その意味がわからず3秒くらい固まった不死川は、その後激しく動揺してしまう。
「な、え?は?…む、む無理に決まってんだろーが…」
「……」
波奈はカアアっと顔が茹蛸のように赤くなっている。
ギュッとスカートを握りしめた手は、微かに震えていた。
たぶん、おそらく、意を決して言ったのだろう。
ドクン、と胸が鳴った。
恋人とすることなんて、何一つしてこなかった。
この2年半。恋人と呼べるかなんてわからない。
波奈はわがまま一つ言わなかった。
それが、なんとキスをしたいと言ったのだ。
応えてやりたかった。
「……んじゃ、ちょっとなら」
なにがちょっとだよ、俺。
言った後にまずい、と不死川は思った。
え?と波奈が顔を上げ、いいの?と目が輝く。
「どーぞォ」
開き直ればもう後には引けなかった。
しかし教師の自分からするわけにも行かず…
ドキドキする胸をどうにか誤魔化しながら、目を閉じた。