満月の夜に【鬼滅の刃 煉獄杏寿郎 宇髄天元 R18】
第30章 初めて触れるヒト《宇髄天元》
「…え、へへ。先生、ぜんぜん私に触れてくれないから…」
「…お前な、それは、」
「生徒だからでしょ?」
「うん、まあ、そうだけど……」
生徒だから、それ以下でもそれ以上でもない、シンプルな理由だった。その簡単で単純な理由が、苦しめる。
グランドからは野球部の掛け声が微かに聞こえる。
よく耳をすませば、吹奏楽の音色も聞こえる。
ただ、ここ美術準備室は2人以外に誰もいない。
この空間だけは、無秩序に感じてしまった。
「…触れて欲しいです、先生」
見上げてくる瞳は真剣だった。ひゅ、と息を呑む。
ビキリと額に血管が浮き出る。射抜かれる、胸を。
もうずっと前から、この子どもに夢中だった。
「わたし、先生なら何されたってーー」
波奈が宇髄の手を取ろうと手を差し出そうとしたーーー。
「よくねーわこのマセガキ!!」
「いたあい!な、なにすんの?!」
波奈は涙目でおでこに手を当てた。
クリーンヒットした宇髄のでこぴんを、波奈は信じられないと言う表情で見つめる。
「調子のんなばーか」
「ひ、ひどい!昂奮したくせに!」
「あーはいはいしましたよド派手にな!」
「開き直るんだ?!先生だって触りたいはずじゃん!」
「今回はお前が尻触られたっつーから腹立って触っただけだわ」
「もーーー!すぐそうやって誤魔化すんだから!」
ぷくっと波奈は膨れながら、ぽかぽかと宇髄を叩いた。
まったく効いてないパンチを軽く交わしながら、宇髄はガチャリと美術準備室のドアの鍵を解除した。
「用が終わったので早く帰って勉強してください」
「ええ?!もう??」
もうちょっと…2人きりなんだし…先生といたい…
と波奈は不服そうにつぶやく。
「明日数学のテストだろーが。不死川、こえーんじゃねーの?」
「うっ…」
波奈はサッと顔色がかわり嘆く。
それから諦めたように、美術準備室のドアをまわした。