満月の夜に【鬼滅の刃 煉獄杏寿郎 宇髄天元 R18】
第30章 初めて触れるヒト《宇髄天元》
「ぅわっ!」
電車が停車し、ガタンと車内が揺らぎ、波奈はバランスを崩した。
「!ぼけっとすんな」
すかさず宇髄は波奈の腕を掴む。
「す、すすいません…っ」
掴まれた手は力強く波奈を支え、波奈は思わず顔に血が上ってしまう。
やってしまった…。波奈は粛々と反省する。
プシュ、と開いたドアから、乗客が多く車内に入り込んだ。
ここの駅は人口が多く、この駅で車内は満員になるのだ。
宇髄と波奈は乗客に押し寄せられてしまって、反対のドア側にギュウと詰められた。
自然と近くなる宇髄の身体。
ち、ちかい…。
波奈は鞄を両手で抱えるように持っていて、その近すぎる距離にドギマギしてしまい、視線を慌てて鞄のほうに向けた。
電車が発車して、ぐらりと揺れる。
トン、と宇髄は波奈を取り囲むように腕を壁に付いた。
壁ドンとも呼べるその体制に、ますます波奈は恥ずかしくなってしまい、カアアアと顔を赤くさせてしまう。
宇髄とは想い合っている、とはいえ、その関係は先生と生徒で、なんとも曖昧な関係が続いている。
キスはもちろん、手を繋いだことだってない。
恋人と呼ぶには甚だしい。
こんな近く近づいたことだって、今まででないのだ。
宇髄の香水の香りが先程からもうずっと香っている。
良い匂いだな、とすれ違うときに思ったりもするが、
こんなに近くで嗅いだことなどないし、目の前の逞しい胸板と、その香りでもう頭がくらくらとするのだ。
もう、早く着いて欲しいよ。
泣きそうな気持ちでただただ時間が過ぎるのを波奈は待った。