満月の夜に【鬼滅の刃 煉獄杏寿郎 宇髄天元 R18】
第30章 初めて触れるヒト《宇髄天元》
「ーーーー痴漢、だあ?」
マズイ。
その明らかに怒気を含んだ、宇髄の低い声で、波奈はすぐに怖気付いた。
「あっ、いえ、ですから、そうかもしれないってだけで…」
「どこ触られた」
「…どこって………」
宇髄の切長の赤い瞳が、ギロリと波奈を問い詰めるように睨む。誰が見ても美形な彼にそういうふうに睨まれると迫力があり、波奈は思わず後ろに後退りした。
しかしながら逃してくれるわけでもなく、宇髄は波奈の返事を静かに待つ。
「……ふ、太ももとか、…お尻とか……」
観念して、目線を外しながら小さい声でそういうと、宇髄は腕を組んで、眉間に皺が寄っていて、怒りをじっと鎮めているようだ。
「せ、先生、怒ってる?」
おこ?激おこ?激おこぷんぷん丸?
へら…と笑いながらそう尋ねると、
「ったりめーだばか!!」
と怒鳴られた。キイインと鼓膜が震える。
いや、ですから、痴漢と言っても、ほんと、鞄が当たってるなあ…とか、たまたまかなあ、とか、そんな程度だったんですけど、
それが3日ぐらい続いて、変だなあ、て思っちゃって…
……先生?
言い訳をつらつら言っていると、ますます宇髄は機嫌を損ねてしまった。
「ご、ごめんなさい……」
「おめーが謝ることじゃねーだろーが…」
だって、だって先生怒ってるじゃん!!
怒りを通り越して呆れているようにも思えて、
何を言っても墓穴を掘るようで、ますます機嫌が悪くなりそうで、波奈はじっと黙ってしまった。
「ーーー明日は俺もその電車乗ってやるから」
大きくため息を吐きながら、宇髄は波奈に言った。
「えっ?い、いいですよ、ほんとに勘違いかもしれないし、わたしのために、」
「お前のためとかじゃねーよ、
お前の乗ってる電車、この学園の生徒が多いだろーが、
生徒を守るのが教師の務め、責務。いいな?」
「…は、はい…」
責務、なんて言われてしまったら、波奈は断れずに返事をする。
たしかに、波奈が乗る電車内はここキメツ学園の生徒が多い。
私のほかに被害に合っている生徒がいるかもしれない。
そう思い、波奈は宇髄の提案を受け入れた。