満月の夜に【鬼滅の刃 煉獄杏寿郎 宇髄天元 R18】
第22章 青い春の彼女※【宇髄天元】
思い出の品物に触れたり、昔付けていた香水の香りを感じたり、
あるいはその時身に付けていた服装であったりーーー
過去の日々をふと振り返ってしまうのは案外と簡単である。
⭐︎
「たらいまあ…」
7月初旬。梅雨も開けからりとした日差しが窓から差し込む昼下がり。玄関先からなんとも力ない声が聞こえた。
立ち上げていたノートパソコンから目線を外して、ガチャリと開いたリビングのドアに目をやる。
「おー、おつかれさん」
「疲れたあ〜!ふあー…クーラー♡」
リビングに入るなり、波奈はふわふわとしあわせそうな表情をした。その気の抜けた顔に、ふっと笑ってしまう。パタパタと手で首元を仰ぐ様子から察するに、今日は外には一歩も出ていないが、だいぶ夏が近づいてきたなと感じる。
「どうだった?大規模災害訓練は」
「旦那を失う怪我した女性の役だった」
スンとした顔で波奈が言った。
「やな役だな」
その後あはは〜と呑気に笑う波奈が、冷蔵庫を開けてグラスに麦茶を注いでいる。ころころと表情を変えて可愛いな、と思った後、俺はまた仕事の途中であったノートパソコンに向き合い、カタカタと仕事を始めた。教師という仕事は、授業で使うプリント作成、生徒の成績処理、美大志望の受験対策エトセトラ、雑事が何かと多く、休日であるのにノートパソコンに朝から張り付いている次第である。
して今半分同棲中の大学生の彼女は、今日は附属の大学病院の大規模な災害訓練とやらで、看護学部の看護学生が朝からかき集められたらしい。