満月の夜に【鬼滅の刃 煉獄杏寿郎 宇髄天元 R18】
第19章 宇髄先生とわたし –記憶と悲恋ー中編
「先生最近忙しいですね」
「うん?まあそーね、だいたい毎年こんな感じだわ」
2つの紙コップが机に並ぶ。
コーヒーはゆらゆらと湯気が出ている。
「お前も言うてる間よ?受験、卒業、大学と」
そういつも誰かに言われるけど、大学受験と卒業なんて遠い未来のようで、ぴんとはこない。
宇髄先生は足を組んで、紙コップのコーヒーをゆっくりと口に含む。
「お前進路決めてんの?親の病院継ぐ感じ?」
波奈の家は代々、小さな診療所を経営していた。
「あ、いえそれは…3人姉がいるので、姉は全員医学部出ているので誰かが継ぐかと思います。両親も好きな道に進めばいいと」
「へえ、よくできた両親だこと」
「けどまあ、医療の道にはずっと進みたいとは思っていますけど」
それは両親を見てきたからなのか、それとも前世の記憶が根本にあって自然と選んだのかわからないが、波奈は医療系には進学したいと思っていた。
「そーか、お前といたら誰だって安心だわ」
軽く言った先生の言葉が胸を突く。
わたしといたら安心?わたしといる未来を、宇髄先生は考えている?
前世の記憶がふわっと甦る。
いつでも愛おしい言葉を際限なく、飽きることなく浴びせてくれた、前世の恋人。今世も先生と恋人になりたい。
欲望はだんだんと大きくなる。
「あの、宇髄先生…」
「うん?」コーヒーを飲みながら何かの資料を片手に見ている。
「えっと…その、」
「なによ」
「…わたし…その、」
「うん」
宇髄先生は全くこちらを見ずに資料を見ていた。しまいにはペンを持って仕事を始めている次第だ。
「…先生のこと、好き…」
です…と言葉尻は消えるように小さくなった。
でもちゃんと聞こえているはずだ。
ペンを持つ手はピタリと止まってしまっている。
「……話ってソレ?」
その声が、低く冷たいように感じる。
波奈はヒュンと心臓が凍りつく。
小さくこくんと頷いた。
「……」
長い沈黙。波奈は顔を赤くしながら宇髄先生をじっと見つめる。
でも宇髄先生は、こちらを全く見ようとしない。
そして一言、
「…そっか」
とだけ言った。
そっか。そっか?
「…え?先生?」
「なに?」
「こ、こくはくしたの、わかってる?」
「うん」
やっとこちらを向いた先生。
「お前の気持ちはわかった」