第20章 彼女の能力
古屋を出たエースは、ユキがどちらに向かったか迷ったが、すぐに今朝と同じ方角へ足を進めた。
しばらく行くと、花畑の奥、崖に咲く桜の木のそばにお目当ての人物がちょこんと座っているのを見つけ、ほっと胸を撫でる。
今日あんなことがあったのだ。その命を投げ出すことは、ユキにとって本望。いくらエースが自身のために生きろと言っても、まだ会って数日の男のために生きることなど、できはしない。
それに、まだ病み上がりなのだ、今朝方まで熱に苦しんでいたのに、弱いとはいえ雨の中外にいるなど、自殺行為でしかない。
まだ命のある様子に安堵し、ゆっくりとその小さな影に近づくエース。
桜の木の下で、海を見つめながら雨に打たれるユキの姿は、痛々しい。しかし、一枚の絵を見ているようで美しかった。
だが・・・・
「・・・風邪、ひきてぇのか」
「・・・・・お節介」
雨に当たるユキは、突然止む雨にこちらを振り返る。そこでは、エースが大きな葉を片手にユキを見下ろしていた。その顔に涙の跡がないことに、少し驚くエース。
「・・・・なんだ、泣いてんのかと思った」
「・・・・・・・・空が、私の代わりに泣いてくれてるのかも」
雲に覆われた夜空を見上げるユキ。
「雨、好きなの・・・なんだか全てを・・・洗い流してくれそうで」
「・・・俺は苦手だ」
「エースは、火だもんね」
苦虫を噛み潰したような表情でそう言うエースに、ユキはフフッと笑う。
来てくれなくても良かったのに、そう呟くユキに、エースは無言で目を向ける。
暗くて後ろからではあまり見えないが、ユキの海を見つめる目は、暗く深い海と同じ色をしている。それを見つめながら、エースはぽつりとこぼした。
「・・・・・・実はな、俺にも、弟がいるんだ」
「・・・」
ピクリ、と反応するユキに続ける。
「ルフィっつって、後先考えねぇ出来の悪い弟だ。いっつも馬鹿やって、心配ばっかかけやがる。だが、強い。喧嘩で俺に勝てたことは一度もなかったが、生命力とゆーか、精神力か。
・・・・・そんな弟の夢はな、海賊王になることなんだ。俺は、あいつならいつかその夢を果たすと思ってる。俺の弟だ。」
「___海賊王」
呟くユキに目を向ける。