第18章 彼女の弟
「・・・弟を持つ姉なんて、そんなものよ。ずっと、ひよこのようについてくる弟を、私は可愛くて仕方なくて、目一杯甘やかした。
もともと両親はいなかったから、私が弟にとっての親代わりでもあったの。人が傷つくのが1番嫌いで、そのせいで喧嘩もできなくていつも同世代の男の子たちに泣かされて帰ってくるの。
だけど、だけどね、弟が扉を開けて帰ってくると、笑ってるの。全身傷だらけなのに、私に心配かけたくないのか、私が喧嘩するのが嫌だったのか、いつも笑って、『ただいま』って言うの。
・・・・目、真っ赤に腫らして、大泣きしてたのに、絶対私に泣いて縋ることをしなかったの。いつもニコニコ笑ってて、太陽みたいな子だった。
私は、どれだけ痛めつけられても、反撃もしない、誰かに頼ろうともしない弟が、なぜかすごく、強く思えた。どれだけ自分が傷ついても、
私の心配ばっかりして
・・・5年間、そうやって2人で生きてきた。
けどある日、私がポカしちゃったした時、弟は変わったの。今まで絶対にやり返さなかったのに、喧嘩して勝って帰ってくるの。
・・・優しい弟が暴力を振るうことがどれだけ辛かったか。それでも、いつも笑ってた。私は、そんな弟がいたから、生きていけたの。」
そこで言葉を切るユキは、エースに視線を向けた。優しい顔で聞いているエースに、ユキはぐっと言葉をつまらせる。
「・・・」
「・・・」
じっと見つめる瞳に、エースは生気を感じられないことに気づく。長い沈黙の末、ユキはおもむろに立ち上がり、扉の前まで歩く。
その扉を開ける前に、チラリとエースを振り返り、一言だけ付け加えた。
「少し・・・夜風に当たってきます」