第18章 彼女の弟
「食え」
そう投げ渡されたのは、エースがこの古屋に帰る際にもぎ取っていた何かの実だ。
赤いそれは、みずみずしい光沢を持ち、美味しそうだ。
シャクリ、とそれに齧り付くエースの周りには、大量の赤い実が置いてある。
「・・・・これ、美味いけどそろそろ肉がくいてぇな」
そう呟くエースを見ながら、ユキも渡された赤い実をかじる。
ジュワッと果肉が出てきて、食欲をそそる。美味しい・・・呟くユキに、な!と笑顔を見せるエース。じっと自分のかじった果実を見るユキは、しばらく置いた後、口を開いた。
「・・・・・・明日から、私がご飯、作りましょうか」
「!作れるのか?!」
「食材はたくさんある島みたいですし・・・」
「じゃあ、頼む!」
キラキラとした目で期待に溢れるエースを横目で見るユキは、少しだけ微笑む。
「!」
それを見たエースは、目を見開きテンガロンハットを深く被り顔を俯かせた。
「・・・・?」
不思議そうな表情をするユキに、煮え切らない反応を返すエース。
「・・・あー・・・いや、笑った顔、初めて見たなと」
「!・・・・・弟に、似た反応するんだもの」
ふわりと笑うユキに、エースはテンガロンハットから覗かせる目でそれを見ると、ニッと笑い返す。
「そうか・・・・聞かせてくれよ、お前の弟の話」
「・・・そうね・・・・弟は、一言で言うと、泣き虫だった。私の後をいつもついてくるような、そんな子だったの。街の子供達にいじめられては、わんわん泣いて。その度に、私が弟をいじめた奴らをこてんぱんにのしてやったの」
「ふはっ、そりゃまた、小さい時からおっかねぇ姉ちゃんだな」
ケラケラと笑うエースに、弟のことを思い出すユキは懐かしんだ。そう、あの子も、よく笑う子だった。外からぽつり、ぽつりと雨音の聞こえる中、ユキは語った。かつて、一緒に過ごした弟との思い出を。