第51章 彼の留守
「・・・なぁ、やっぱ連れて行っちゃダメか?」
ダメだ、とその場にいた全員から渋い顔をされ、エースは断念する。しかし、目の前で苦笑を浮かべる女が心配なのは事実で。
「・・・・荷物に入れて持ってける大きさならよかったのに」
ぽつりとその場に落とされたその言葉に、本気でやりかねないと思ったのかサッチがの前ユキに体を滑り込ませた。それを見たエースは、少し不機嫌そうに低い声を出す。
「・・・ジョーダンだよ」
「冗談に聞こえねェんだ、バカ」
そんな会話を繰り広げる2人をサッチの背越しに見上げ、ユキは少し苦い顔をする。今回、エースはメラメラの実を持つが故に専用となった小型のストライカーを走らせることのできるその身軽さから、ある仕事を任された。
少し先にある、小さな島に届けて欲しいものがある、と。オヤジさん直々のその届け物を大事にリュックにしまったエースは、今日から1週間モビーから離れることになった。
ユキにとって、初めてのエースと離れる期間となる。出会ってから1ヶ月以上経つが、今までは常に探せばいる範囲にエースがいた。なのに、7日間もその姿を見ることはない。そのことに寂しさを覚えながらも、ユキはサッチの背が目の前からずれていくのに合わせ、その顔を笑顔にする。
「大丈夫、心配しないで」
にっこりと笑ってみせたユキに対して、エースは逆に顰めっ面をする。そのあまりに歪まれた口元に、え、とユキは戸惑いの声を上げた。
「・・・お前な、そういうとこが心配なんだって」
コツ、と頭に拳が降ってくる。全く痛くないそれに、パチクリと目を瞬かせたユキ。そんなユキを見て、エースは何か決めたように足を一歩前へ出す。