第31章 宴の後の静かな覚悟
マルコが包帯を巻き終える頃には、スゥスゥと規則正しい寝息を立てるユキ。
それを見つめるエースに、マルコは少し呆れた声を出す。
「寝ちまったみたいだねぃ」
「あぁ、疲れてたんだろ・・・ずっと気を張ってたしな」
「・・・エース。お前の前でしかこいつは、素直な表情を出せねぇのかぃ?」
「・・・・・・いや」
宴中、ずっと気になっていたことを確認するように聞く。常に笑顔でクルーたちの話を聞くユキは、嫌な顔1つしなかった。もともとそういう性格なのかと思ったが、天竜人の奴隷であったことや、弟を殺された話を聞いているマルコと、サッチ、そしてオヤジにはその様子が少し異様に思映った。
普通なら、怯え、人と話すことに抵抗を見せ、笑顔も見せないだろう。そういった人間を、今までたくさん見てきたのだ。なのにユキは、海賊であるマルコたちに怯えることもなく、しっかりと目を合わせ話し、楽しそうに笑う。
エース自身、気づいていない訳が無い。だから聞いたのだ。なぜその状態を放って置くのか、と。精神面がやられていないわけがないのに、どうしてあのままにして置くのかと。
「こいつは・・・・弟の分まで幸せに、笑って生きていくっつってたんだ。無理してんのは知ってる、けど、そうでもしなきゃやってらんねぇ時なんじゃねぇかな・・・・俺は、ゆっくりこいつの傷が癒えるのを側で見守っていきてぇんだ。・・・だからよ、マルコ」
こいつのこと、気にかけてやってくれよ
そう言って困ったように笑うエースの頼みを、聞かないわけがないマルコだった。
エース自身、なんとかしてやりたいと思っていたのだろう。だけど、あのオヤジへの一喝然り、どうにも気の強く、意地っ張りな女であろうユキに、エースの言葉は今は、意味を成さなかった。
こればかりは時間が経ち、この船に慣れていけばきっと大丈夫だと、エースは信じているのだろう。
大事そうにその存在を抱くエースは、一言マルコに礼を言ってから扉を閉めた。