第2章 ー夢でみる私?
私の乳母であった彼女は、5年前の兄の葬儀の際に持病の悪化が原因で療養しに屋敷を離れて久しい。そんな彼女が領地返還を喜ぶどころか、今、私の前に震えながら座っている。
「カレンディア様、久しくお目にかかり嬉しく思いますわ…。こんなに美しくお育ちになられて…。」
「ねぇ…婆や?…さっきのは一体…。」
核心をついた私の問に彼女は、やがて何かを決心したかのように私の目をまっすぐと見つめ口を開いた。
「カレンディア・カレンディア様の出自についてでございます。あなた様は…カレンディア家長女カレンディア様の影武者でございます。」
(何を言っているのだろう…。)そう私は思った。影武者?…ということは私はこの家の娘ではないの?…では私は一体誰なの?
頬を一筋の涙がつたった。何も考えられない…。今までの努力は何だったの?…全て無駄だったというの…。
「…様!…カレンディア様!」
(…ハッ)乳母が私を抱き締めていた。彼女も私と一緒に泣いている。
一通り泣き終わり、落ち着いた私に乳母はさらに話した。
「あなた様は本来、前当主様…お父様の私生児でございました。そして、本来カレンディアと名付けられたお嬢様は亡きマクシミリアン様の継母様のお産みになられた女の子でした。」
彼女が話すには、その本来のお嬢様は体が弱かったために、日々の鍛練に耐えられず、ある日の鍛練中の事故で亡くなってしまったそうだ。
継母はそのショックに耐えられず、鬱状態となり部屋に籠りきりになってしまった。そこで、当主は継母との結婚前に付き合っていた女性が女の子を出産していたことを知り、私生児ながら継母の娘として引き取ったのだそう。
私には、知る必要はないと伝えないまま…。
「しかし、あなた様とお嬢様には顔や性格などの他に、決定的な違いがありました。…髪色です。」
カレンディア家の血筋の子供には白髪がみられる。しかし、私生児であることは確かながら、カレンディアの色は濃く鮮やかな紫であった。
(だからさっき…)召使い達の反応に合点がいった。
「ねぇ…教えてくれないかしら…。ねぇ婆や?顔も知らない私の本当の……本当の母はどこにいるの?」
「カレンディア様の本当のお母様は……。」